外海における海岸侵食機構

上記の侵食機構は、「流れのある川の上流で遊んだ子供は、自分の後に渦が発生することは知って
おり、川の一部を遮る堰があると、その下流の河岸は渦で侵食されることも知っている」ことから容易に
推定でき、専門家が使われる難しい解析の必要も無い簡単な自然現象である。
幾つかの海岸工学の専門書をパラパラ見ても、この自然現象に言及している記述が無いのに驚きます。

外海に面した海岸では黒潮などの海流から派生した沿岸海流が存在し、黒潮の蛇行によって沿岸海流の
流れ方向や強さが影響を受けるし、内海に面した海岸でも潮の干満による沿岸海流（潮流）が存在する
ことは海に興味のある人には常識であろう。

湖と違って、この様に沿岸海流が存在する海岸で数百メートルに及ぶ防波堤や突堤・導流提などを突き
出せば、流れのある川の一部を遮る堰と同じ現象が発現することは当然であり、学問以前の常識であろう。

では、機械工学の初歩的な知見を見てみたい。
原子力発電所の鋼管内の水の流量を計測するのにオリフィスを使用しますが、その形状は海岸で防波堤
などを沖に向かって突き出しているのに似ています。
そこでの弊害を図示したのが次の2ページの図１で、上記の図の相似性に直ぐ気が付くと思います。
　　原発、配管減肉現象
美浜原発での事故例が次の5ページの写真です。
　　美浜原発、配管破断事故
不純物を含まない純水ですが、海岸での防波堤などの下流と同じように、オリフィスの下流で渦を発生し、
鋼管を減肉させて破断したものです。海岸での沿岸海流は原発の鋼管の中の流速に較べると格段に遅い
のですが、脆弱な砂浜は簡単に渦によって侵食される事は自明の事と思いますが、海岸工学の専門家や
地方自治体の砂防海岸課などの担当者には、このような簡単な現象が理解される事無く税金が無駄に
使われています。

海岸保全の専門家は意識的かどうかは判りませんが、縦割り行政に安住されているためか、沿岸海流に
触れることなく、海岸保全を論じられる！？　抜本対策を横に置いた海岸保全工事は「浜の真砂」と同様に
絶えることなく仕事は続く、続く。
その結果、石川五右衛門も驚く「浜の真砂」の消失となり、海岸はコンクリート製の護岸と消波ブロックに
変って行く。

では、上記の侵食機構に対し専門家はどのように解説されているか？　一例を見てみよう。
上図における港を形成する防波堤 a と b が建設される段階までは侵食は発生しないが、防波堤 c が
建設されると、波の遮蔽域が出来、漂砂現象によって上図の如き砂浜侵食が発生すると言われ、
沿岸海流に関する記述は一切無い。
　（参考：専門家による「なぎさ保全研究会」のホームページにある「海岸侵食とは？」を見ると侵食された
　　海岸の保全にのみ注目して、港などの建設時のアセスメントや抜本対策に対する提言が欠落している。）

実態は、初期の防波堤 a と b が建設される段階で、当然沿岸海流の流れを妨げ、下流に渦を生じ、
異常な侵食を引き起こしています。興味のある方は「日本の海岸侵食」宇多高明著（山海堂）の９０頁
に記載の図３．３．４５　波崎新魚港周辺の汀線変化　をご参照下さい。

「漂砂」という現象が海岸侵食の原因として挙げられ、素人には理解しにくい用語ですが、白浜が
考えるに、砂浜（汀線）は進入してくる波に対して安定である直角（正対）になろうと砂が異動するもの
と考えると理解し易い。
砂浜に対し、正面から波が来れば漂砂は発生せず、波が右から来れば漂砂は左へ、波が左から
来れば漂砂は右へ向かい、砂浜は波に対して正対しようと砂が異動します。

上図の防波堤 ｃ が建設されると、波は回折して波の遮蔽域へと向かい、それに応じて砂が移動する
漂砂を海岸侵食の主原因とされていますが、このような侵食であれば、小さな突堤を一つ建設するだけで
侵食が数ｋｍに及ぶ現象は防げる筈である。実態は、多数のヘッドランドを建設して満足している例が
多いが、ヘッドランドだけでは不十分で、その後、砕石による養浜を追加する例も出て来た。

漂砂は風向によって、右に左にと、一日の間にも、季節によっても変わる昔から存在する自然現象で
ある。望ましくは無いが、港などを建設することによって、どちらかに卓越した漂砂を遮断する場合には、
その条件の中で砂浜の形状が決まって来ることを計画段階で覚悟する必要がある。

大水深沖防波堤の建設ににより上記の沿岸海流に起因する侵食を回避出来たとしても、この漂砂の遮断が
一部の海岸で侵食をもたらす場合には、事前に周知徹底し、住民を始め関係者の了解を得ると共に、
侵食地の補償などの責任を明確にしておくべきである。
又、侵食を許せない場合には、この漂砂によって砂が堆積する側から侵食される側にサンドバイパスを
義務付ける事が不可欠である。


漂砂の遮断による侵食と、港などの建設に伴う長大な防波堤を沖に向かって突き出すことによる、

　　・沿岸海流の流れを妨げることによって発生する渦による異常な侵食
　　・海岸への砂の補給遮断による侵食

とは、峻別して海岸侵食の根本対策を実行すべきである。
税金の無駄遣いとなる弥縫策（一時的な取り繕い）の永続化は排除したいものである。

最近のトピックス
　18年11月30日産経新聞、新現役ネット第28回フォーラム「成熟」における国際問題アドバイザーで
　新現役ネット理事長の岡本行夫氏の発言
　「野山で生き物と間近に遊んだ子供たちは、脳を刺激されて考える。
　 都会の子供は、あらゆるものを与えられ、処理することだけ考えれば済んでしまい、あまり考えない」

　考えさせられるコメントと思ってしまいました。

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