２００３年（平成１５年）　９月１３日（土）《１４８４号》

平塚新港を利用している漁船は今のところ１隻のみ。

無用の長物？
平塚新港　低い利用率

　約６０億円の事業費を投入して造られた平塚新港−−。ところが平成１２年７月に供用開始して以来、利用率は低く、ほとんどの漁船、遊漁船は旧・須賀港を利用。”魔の河口”といわれる相模川河口の航路が危険で使えなくなった場合に併用する目的で造られた新港だが、２０％にも満たない利用状況だ。「何のため（新港を）造ったのか、分からない」「元に戻して、砂浜にしてほしい。地元は迷惑」（地元住民）と批判の声も上がっている。今後も利用率が低ければ、無用の長物になりかねない。

直販所など計画トーンダウン
「何のために造ったのか―」　
住民から批判の声

　平塚新港は、湘南地域における沿岸漁港の中核的な漁港とフィッシャリーナの２つの機能を兼ね備えた港として計画された。
　相模湾で獲れた魚を販売する水産物直販所やシーフードレストラン、さらに海が一望できる温泉浴場を造る計画もされていた。しかし、これらの計画は、すでにトーンダウン。
　新港は須賀港に比べ波が荒く、台風が来ると船が損傷を受けやすいのだという。このことが漁業者が新港を使わない最大の理由だ。
　新港は、外洋からの波が来る方向に入口があるため、港内に高い波が直接入る。港内で波が上下左右に激しく変動するため、台風や低気圧時のシケのときは波によって船体が大きく揺れ、ひどく損傷してしまう。
　茅ケ崎港も同様な条件で、台風時には油壺漁港に避難するが、同港はもともと平島という波を消す自然の岩礁を利用して造られた漁港であるため、台風以外は静穏が保たれている。
　大磯港は台風が襲来しても船が損傷することがないため、避難せず港に停泊している。同港は継ぎ足すように堤防を延長しているので、かなりの静穏を保っている。災害防災の指定港にもなっている。

荷さばき場ができたが、まだ利用されていない

波荒く、船を置けない
”あびき”のために船体が損傷

　平塚新港もこれらの港と同様、港内の波が静穏を保つように設計されたが、自然の力が予想以上に強く、静穏度は低い。相模川から運ばれてくる砂の堆積を避けるため、外洋の波が押し寄せてくる西側部分に船の出入り口を設けているので、南西風の強い風でも”あびき”といわれる現象が起きる。
　港内の波を消すために沖合にもう１本堤防（消波堤）を作る必要性を漁業者らは訴えるが、平塚市は「造る考えはない」（みなと水産課）と全面却下。「（新港は）船を停めて、問題になるようなレベルではない。係留アンカーがないなど、須賀港に比べれば不便なところがあり、台風のときは波が堤防を越えて入ってくるので船が置けない。しかし須賀港に避難すればいいのであって、漁業者は新港と旧港を上手に使ってほしい。新港は今、整備されつつある段階なので、静穏度が低くて危ないから堤防を造る、というふうには考えていない」
　沖合にもう１本堤防を造るとなれば、莫大な費用がかかる。堤防は１０〜１５メートル造るのに数億円単位かかるといわれ、財政難の折、国からの補助金は難しい面がある。
　それより必要な施設を先行的に整備する、という計画が市にはあり、実際に荷さばき施設を昨年度に完成させ、今年度中には製氷施設を完成させる計画だ。
　しかし、漁港背後地に計画されていたシーフードレストランや管理棟の建設は、法規制によって難しい面があり、当初の計画通りには進められない現実がある。整備の大幅な遅れの原因にもなっている。
　新港の背後地は、都市計画上の制限があり、現在、公園区域、第１種住居専用地域、特別風致地区になっている。このため法規制の撤廃が必要で市みなと水産課では平成１６〜１７年頃に規制を撤廃させたい考えだ。
　同市が計画している漁港背後地は定置網を干すなどの漁業関係の作業場港全体をカバーする管理棟シーフードレストラン、ボートヤードを配置した３つのゾーン。これら３ゾーンは大浜地区（１３４号線と平塚新港の間に位置する）の区画整理事業の進捗に合わせて進めて行く方針だ。だが、区画整理事業も遅々として進んでおらず、漁港内で整備する施設の絵も描けない状況にある。荷さばき場は、平塚市漁業協同組合が国などからの補助金で建てられた。

できるところから早急に整備　平塚市

　市では、灯台の設置を海上保安庁に要望中。灯台の基礎部分となる土台は市が造っている。給水施設も１４年度で完成させ、臨港道路の舗装も来年度に行う計画だ。また、船を安全に停めるための係留アンカーも早急に整備していく方針で、事業は着々と進んでいるようだ。
「漁港としての機能を今後、充実させていけば、新港にシフトされていくだろうし、期待もしている。また、そういうふうにしていかなければならないと思っている」（みなと水産課）
　新港はハード的には完成している。しかし、港としてのソフト上の機能を果たしていない。
「いくら近代的な施設を整えても、漁業者の利用率が低ければ、ただの施設。何のために造ったのか、分からない」と地元住民の批判もある。
　新港は、レジャー観光的な要素を取り入れた、湘南地区の拠点として造られた。しかし、当初の計画とは大分違ったものになっている。
　市みなと水産課では「できるところから順次、早急に整備していきたい。使いやすい港になるように努力する姿勢は持っている」と話す。
　魚市場関係者は「（新港は）何のために造ったか分からない。供用開始してから２〜３カ月は何もしなかった。放りっぱなしの状態だった。台風が来れば船に傷がつくので置けない。今のところ、新港は利用価値がない」
　定置網漁の漁師も「台風のときは、（港内に）うねりが入ってくるので、とてもじゃないけど船は置けない。低気圧のシケぐらいは大丈夫だが、ギシギシという音がするので、須賀港に停めている」
「利用価値？　今のところないねえ。（相模川）河口の条件が悪くなければ、ほとんど須賀港から出入りしている。（新港には）荷さばき場ができているが、今のところ使っていないようだ。もったいないと思う。しかし、須賀といういい港があるのに、どうしてあんな港を造ったのか」

ほとんどの船が須賀港に集まっている。

周辺事業も遅々として進まず…
漁業者　「須賀港と上手に併用できれば」

　須賀港は新港に比べ波の静穏度が高く、ひしめくように船が並んでいても船体に傷はつかない。しかし、新港は避難港としての利用もできず、魚の荷揚げに必要な施設も整っていないため、定置網漁船は須賀港を利用している。
　川長（定置網漁）の漁船は、船体が大きいため、須賀港には入れず新港を利用している。だが、新港で荷揚げされた魚は、須賀港の魚市場まで軽トラックで運ぶ不便を強いられている。須賀港の魚市場も新港への移転は、ほとんど考えていないようだ。
　新港の荷さばき施設は現時点では使用されていないが、今年度、製氷貯氷施設を約４０００万円かけて造る計画で、現在、同組合が機種の選定を行っている模様だ。
　同組合の後藤紀雄組合長（庄次郎丸）は「（製氷施設が）できたらすぐに使いたいと思っているが、須賀に魚市場があるので、すぐに切り替えることはできない」と述べ、当分は須賀港と併用していく考えを明らかにした。
　利用率の低さについて、同組合長は「野原の中に箱を置いたようなもので、完全とはいかない。沖にもう１本堤防を築いて波を消したいが、国の予算の都合もある。新港に今、完璧を求めるのは無理だ。須賀港と併用した形で、うまく利用していきたい」
　地元のある住民は「相模湾で獲れる地魚は少ないのだから、あんな立派な港はいらない。税金の無駄使いもいいところだ」と批判的だ。「設計ミスだ。港であって港じゃない」（６０代）。「吊り桟橋を作った方がずっとよかった。（港を運営する）民間の会社だったら、とっくに倒産しているよ」（６０代）。新港に対する思いは、漁業者と地元住民では、かなりのギャップがあるようだ。

遊漁船・プレジャーボートが活用
レジャーのための起点に

　新港は”魔の河口”といわれる相模川河口で船の転覆事故や、砂の堆積で須賀港から船の出入りができなくなることを避けるため、併用する形で造られた。
　相模川上流のダムから放流がないと、河口はすぐに砂が堆積してしまう。過去、遊漁船が転覆して死亡者を出すなど、相模湾では最も危険箇所として知られている。プロでも船の操舵が難しいといわれ、過去、数人の漁師が命を落としている。漁師たちの強い希望もあり、新港は平成１２年７月に供用開始した。
　新港はどちらかといえば、レジャー的要素の強い漁港だ。フィッシャリーナ施設としての機能も併せ持っており、プレジャーボートの年間の係留は１７００隻（１４年度実績）。土・日の利用が圧倒的に多く、月間で１００〜１１０隻のプレジャーボートが利用するという。
　水域部分の右半分を遊漁船とプレジャーボート、左半分を漁港施設として使用している。遊漁船は１１隻が停泊でき、利用してもしなくても、月間の利用料が市に支払われている。
　プレジャーボートは１８隻の係留が可能で、２時間まで５００円（基本料金）を徴収し、１時間ごとに加算されていく料金システム。
　遊漁船の場合、２〜３日、あるいは１晩停泊したり、しなかったりケースバイケースで利用しているという。うねりがあるときは、新港に寄って、釣り客を乗せる、といった活用方法もとっており、「新港を全然利用しないということはない」と市関係者。
　庄三郎丸は「今年もかなりの率で、（須賀港からの）船の出入りができなかった。ここ５年間はこういう状態が続いている。その間は新港に船を置いていた」
　豊漁丸は「（新港は）波が上がったり下がったりする”あびき”がある。船と岸壁の間にフェンダーを付けているが、それでも船体に傷が付く。新港は、河口航路が砂で堆積して通れなくなったときに利用価値はあるが…」